最初のスマートフォンは何?IBMサイモンが先取りした機能

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電話、メール、カレンダー、メモ、タッチ操作。いまでは1台のスマートフォンにまとまっている機能ですが、1990年代初頭には携帯電話と携帯情報端末を別々に持つのが珍しくありませんでした。

そんな時代に、電話とコンピューターの機能を一つにまとめようとした端末がIBM Simon Personal Communicator(IBMサイモン・パーソナル・コミュニケーター)です。

IBMが開発し、のちにBellSouth(ベルサウス)を通じて販売されたSimonは、現在では「最初のスマートフォン」と紹介されることの多い端末です。Computer History Museum(コンピューター歴史博物館)も、Simonを最初のスマートフォンとして位置づけています。

ただし、発売当時はまだ、いま使われている意味での「スマートフォン」という製品分類は定着していませんでした。

現在のスマートフォンとは姿も性能も大きく異なるSimonは、どのような端末だったのでしょうか。

目次

最初のスマートフォンと呼ばれるIBMサイモンとは?

IBM Simonは、携帯電話とPDA(Personal Digital Assistant/携帯情報端末)の機能を一つにまとめた通信端末です。

Smithsonian(スミソニアン協会)の所蔵資料でも、Simonは携帯電話とPDAを組み合わせた機器として記録されています。通話だけでなく、アドレス帳、電卓、カレンダー、時計、電子メール、メモ、手書き用のスケッチ機能、FAXなどを備えていました。

当時は「携帯電話で通話する」「PDAで予定や連絡先を管理する」といったように、用途によって機器が分かれていた時代です。その二つを1台へまとめた点が、Simonがスマートフォンの先駆けとして評価される大きな理由です。

原型は1992年に公開されていた

Simonにつながる端末は、製品発売より前から姿を見せていました。

開発チームの資料をまとめたSimon Historyによると、1992年11月23日のコンピューター展示会COMDEXで、後のSimonへ発展する技術デモが公開されています。当時のコードネームは「Sweetspot(スイートスポット)」でした。

その後プロジェクトが進み、1993年11月2日に「Simon」として製品が発表されます。一般向けに市場へ登場したのは1994年で、Science Museum(サイエンス・ミュージアム)はアメリカでの発売日を1994年8月16日としています。

そのため、Simonについて調べると「1992年」「1993年」「1994年」という複数の年が登場します。

1992年は原型となる技術デモ、1993年は製品発表、1994年は一般販売が始まった時期と考えると、それぞれの違いが分かります。

当時の商品名に「スマートフォン」は入っていない

興味深いのは、正式名称がSimon Personal Communicatorだったことです。

1992年の技術デモの段階でも「Personal Communicator」と呼ばれており、当時は「スマートフォン」という製品分類そのものが広く定着していませんでした。

現在では「世界初のスマートフォン」と紹介されることの多いSimonですが、それは後世の製品カテゴリーから振り返った呼び方でもあります。

Computer History MuseumはSimonを最初のスマートフォンと明記しています。一方、Smithsonianでは「携帯電話とPDAを組み合わせた通信機器」として記録されています。

つまり、「最初のスマートフォン」という表現は広く使われているものの、何をスマートフォンの条件とするかによって線引きには余地があるということです。

さらに、「スマートフォンに当たる端末がいつ登場したか」と、「smartphone(スマートフォン)という呼び名がいつ使われ始めたか」も同じ話ではありません。

スマートフォンという名称の起源には資料によって説明の違いがありますが、日本の公正取引委員会の資料では、1996年に登場したNokia 9000 Communicator(ノキア9000コミュニケーター)が「smartphone」と呼ばれたことを名称の起源とする説が紹介されています。

Simonが発売された1994年には、後から見ればスマートフォンと呼べる特徴を備えた端末がすでに存在していた一方、「スマートフォン」という呼び名の定着はそれより後だったわけです。

IBMサイモンでは何ができた?

現代の端末と比べれば機能は限られていますが、1994年の携帯端末として見るとSimonには先進的な要素が数多く盛り込まれていました。

機能Simonでできたこと
電話携帯電話として通話する
電子メールメールを送受信する
FAXFAXを送受信する
ページャーポケットベルのように通知やメッセージを受け取る
カレンダー予定を管理する
アドレス帳連絡先を保存する
メモ端末上でメモを取る
スケッチペンを使って画面へ書き込む
電卓・時計日常的な情報管理に利用する
拡張PCMCIAカードを使って記憶容量などを拡張する

こうして並べると、「電話に便利な機能を少し追加した」というより、持ち歩ける情報端末に電話機能まで組み込んだ機器だったことが分かります。

本体にはPCMCIAカード用のスロットも備わっていました。PCMCIAは当時のノートパソコンや携帯情報端末でも利用されたカード規格で、Simonではメモリーカードなどを差し込み、記憶容量や一部の機能を拡張できました。

現在のアプリストアのように、インターネットから好きなアプリを次々と追加する仕組みとは異なります。それでも、購入後に端末の記憶容量などを拡張できる設計は、当時の携帯端末として注目できる特徴です。

画面を直接触って操作できた

Simonを現在のスマートフォンに近く感じさせる特徴の一つが、前面のタッチスクリーンです。

専用のスタイラスペンが付属し、画面上のボタンを押したり、文字や図を書き込んだりできました。物理的な数字キーを中心に操作する当時の携帯電話とは、かなり異なる設計です。

電話番号の入力などにも画面上のキーを利用しており、操作に必要なボタンを画面へ表示するという考え方が取り入れられていました。

もちろん、指で滑らかに操作する現在のマルチタッチとは別物です。それでも、「画面そのものを操作部分にする」という発想には、後のスマートフォンへ通じるものがあります。

メールは使えたがWebブラウザはなかった

Simonは電子メールに対応していたため、「インターネットも今のスマートフォンのように見られたのでは」と思うかもしれません。

しかし、市販されたSimonにはWebブラウザが搭載されていませんでした。

連絡先、メール、FAXなどの通信機能は備えていましたが、今のようにWebサイトをブラウザで自由に見て回る端末ではありません。

1992年の試作機では、天気、株価、地図、ニュースなど、後のスマートフォンを思わせる画面もデモされていました。しかし、1990年代前半はWebや一般消費者向けのオンラインサービス自体がまだ発展途中です。

Simonはデータ通信のできる携帯情報端末ではあっても、「ポケットに入るインターネット端末」と呼べる段階には達していなかったのです。

画期的なのに大ヒットしなかったのはなぜ?

Simonは後世から見ると先進的な端末ですが、商業的には大きな成功を収めた製品ではありませんでした。

Science Museumによると、販売台数は約5万台で、販売開始からおよそ6か月で市場から姿を消したとされています。

電話と情報端末を一つにする発想は先進的でも、1990年代前半の技術では、価格や携帯性、電池持ちなどに大きな制約がありました。

高価で大きく、電池持ちにも課題があった

Computer History Museumでは、Simonの当時の販売価格を899ドルと紹介しています。

現在の金額へ単純に置き換えることはできませんが、誰でも気軽に試せる携帯端末ではありませんでした。

大きさも今のスマートフォンとはかなり違います。Smithsonian所蔵品では、高さ約22.2cm、幅約6.7cm、厚さ約5.1cm。Science Museumは重量を約500gと紹介しています。

手のひらに軽く収まるというより、かなり存在感のある携帯端末でした。

電池持ちも弱点の一つです。Computer History Museumでは、連続通話時間を30分未満としています。

外出先で電話、メール、予定管理などを1台にまとめられるのは魅力的でも、頻繁な充電や電池交換が必要になるようでは、現在ほど気軽に持ち歩いて使うことはできません。

Simonは先進的な機能を備えていた一方、その発想を快適に使うための小型化や電池、通信環境はまだ十分に整っていませんでした。

「早すぎたスマートフォン」と見ることもできる

Simonが登場した1994年は、Webが一般へ広がり始めていた時期でした。

しかし、携帯電話から高速通信でWebサイトや動画、各種オンラインサービスへアクセスできる環境はまだ整っていません。

オンラインのアプリストアも存在せず、購入した端末へ好きなアプリを次々と追加するという使い方も一般的ではありませんでした。

それでも、通話・通信・予定管理・メモなどを一つの携帯端末へ集約するという方向性は、その後のスマートフォンが広く採用していった考え方とよく似ています。

販売面では大ヒットに至りませんでしたが、機能や設計の方向性には、後のスマートフォンと共通する点が数多く見られます。

IBMサイモンは現在のスマートフォンの「直接の祖先」なの?

Simonを「最初のスマートフォン」と呼ぶと、現在のiPhoneやAndroid端末がSimonから一直線に発展したように感じるかもしれません。

しかし、スマートフォンの歴史は一つの製品だけから続いたものではありません。

1990年代には、携帯電話と携帯情報端末を融合しようとするさまざまな試みが進みました。Simonの後にはNokia Communicatorのような端末も登場し、携帯電話にメールや情報管理などの機能を組み込む流れがさらに広がっていきます。

そのためSimonは、現在のスマートフォンの設計をそのまま生み出した端末というより、「電話とコンピューターを一つにする」という方向性を非常に早い時期に形にした重要な先駆者と見るほうが実態に合っています。

現在のスマートフォンには、電話、カメラ、音楽プレーヤー、地図、ゲーム機、財布など、さらに多くの役割が集約されています。

Simonは、電話とPDAを一体化し、タッチスクリーンまで備えた点で、その後のスマートフォンにつながる特徴を早い時期から持っていました。

まとめ

IBM Simon Personal Communicatorは、携帯電話とPDAを一体化し、通話だけでなく電子メール、FAX、ページャー、カレンダー、アドレス帳、メモなどを1台で扱えるようにした端末です。

原型となる技術デモは1992年に公開され、1993年にSimonとして発表された後、1994年に一般向け販売が始まりました。現在では「最初のスマートフォン」や「最初に一般販売されたスマートフォン」として紹介される代表的な存在です。

ただし、Simon自身が当時から現在と同じ意味で「スマートフォン」と呼ばれていたわけではありません。端末そのものの登場時期と、「smartphone」という名称が広がった時期も分けて考える必要があります。

それでも、電話、情報管理、データ通信、タッチスクリーンを一つの携帯端末へまとめたというSimonの特徴は、現代のスマートフォンを思わせます。

販売台数は約5万台、販売期間もおよそ6か月と短いものでしたが、後に広く普及する発想の多くを1990年代前半に形にしていました。IBMサイモンは、スマートフォンの歴史をたどるうえで重要な先駆例の一つです。

参考情報

  • Computer History Museum「IBM/BellSouth Simon Personal Communicator」
  • Computer History Museum「Phones Get Smart」
  • Smithsonian National Museum of American History「IBM tye 0779 Simon Personal Communicator」
  • Science Museum Blog「Simon Says… “be Smart”」
  • Simon History「Simon History」
  • 公正取引委員会「モバイルOS市場の歴史(スマートフォンの登場とシェアの推移)」

※「最初のスマートフォン」の定義には複数の考え方があります。本記事では、IBM Simonを最初のスマートフォンとする博物館資料などを参照しつつ、当時から現在と同じ製品分類が確立していたわけではない点も踏まえて紹介しています。

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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