銀杏はなぜ踏むと臭い?においが強くなる仕組み

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秋のイチョウ並木を歩いていると、どこからともなく独特のにおいが漂ってくることがあります。地面に落ちた銀杏をうっかり踏むと、さらに強く感じることもあります。

このにおいの主な発生源は、普段食べている銀杏の中身ではありません。その外側を包んでいる黄色くやわらかな「外種皮(がいしゅひ)」です。

外種皮には、ブタン酸(酪酸)やヘキサン酸など、強いにおいに関係する揮発性成分が含まれています。熟した銀杏の外種皮にはこうした成分があり、地面へ落ちたあとに傷んだり腐敗したりすると、不快なにおいが目立つようになります。

踏まれると外種皮がつぶれ、においの元を含む部分が地面や靴底へ広がります。

では、銀杏のどこが臭っているのか、踏むことで何が変わるのでしょうか。

目次

銀杏のにおいはどこから出ている?

地面に落ちている黄色や橙色の丸い銀杏は、果肉に包まれた果実のように見えます。

しかし、イチョウは裸子植物です。リンゴやミカンのような被子植物の果実とは仕組みが異なり、黄色くやわらかな部分は種子を包む肉質の外種皮にあたります。

熟したイチョウの種子では、この外側の層が黄色くやわらかくなり、においに関係する成分を含んでいます。

普段、茶碗蒸しなどで食べている「銀杏」は、この臭いやわらかな外種皮そのものではありません。外種皮を取り除き、その内側にある硬い殻を割って中身を食べています。

そのため、街路樹の下で強く臭う部分と、料理で食べる部分は同じではありません。

また、イチョウは雌雄異株(しゆういしゅ)で、雄株と雌株が別々に存在します。種子をつけるのは雌株なので、すべてのイチョウの木の下に銀杏が落ちるわけではありません。

銀杏が多く落ちているイチョウ並木には、種子をつける雌株が含まれています。

銀杏はなぜあんなに臭い?

銀杏特有のにおいには、外種皮に含まれる揮発性の脂肪酸などの成分が関係しています。

代表的なのが、ブタン酸とも呼ばれる酪酸(らくさん)とヘキサン酸です。

外種皮の成分を調べた研究では、ブタン酸やヘキサン酸をはじめ、複数の揮発性成分が確認されています。これらの一部が、熟した銀杏や傷んだ外種皮から感じる独特のにおいに関わっています。

酪酸は少量でも強いにおいを感じやすい物質として知られているため、銀杏の臭気を説明するときによく挙げられます。

ただし、銀杏のにおいが酪酸だけで決まっているわけではありません。

ヘキサン酸など、ほかの成分も確認されています。そのため、銀杏特有のにおいには一つの物質だけでなく、外種皮に含まれる複数の揮発性成分が関係していると考えられています。

酪酸だけに注目すると分かりやすくはなりますが、実際の銀杏のにおいは複数の成分が重なって生じているものです。

なぜ銀杏は踏むとさらに臭く感じる?

銀杏は、踏まれなければ臭わないわけではありません。

熟した外種皮にはにおいに関係する成分が含まれており、地面へ落ちたあとに傷んだり腐敗したりすると、臭気が目立つようになります。

そこへ踏みつける力が加わると、やわらかな外種皮が押しつぶされます。

すると、外種皮の中にあった液状の部分や、におい成分を含む組織が地面へ広がります。つぶれる前より周囲へ付着しやすくなるため、近くを歩いている人にも強く感じられやすくなります。

においを感じるには、においを持つ物質が空気中へ出て鼻まで届く必要があります。銀杏を踏みつぶした場合は、外種皮の内部にあったものが表面へ広がるため、臭気を感じやすい状態になると考えられます。

流れとしては、

銀杏が熟す
→ 地面に落ちる
→ 外種皮が傷んだり腐敗したりする
→ 踏まれて外種皮がつぶれる
→ においの元を含む部分が周囲へ広がる
→ 臭いを強く感じやすくなる

という形です。

踏んだ直後の強いにおいは、その瞬間に新しい悪臭成分が大量に作られるというより、もともとにおいに関係する成分を含んでいた外種皮が、つぶれて周囲へ広がることで説明できます。

靴につくと歩いた先まで臭うのはなぜ?

銀杏を踏んだあと、その場を離れてもにおいがついてくることがあります。

これは、つぶれた外種皮が靴底の溝などに入り込み、においの元となる物質ごと運ばれるためです。

さらに歩けば、靴底についた外種皮が別の場所へ付着することもあります。

そのため、銀杏を一粒踏んだだけでも、しばらく「ずっと臭う」と感じることがあります。

街路樹の下で大量の銀杏が踏まれた場合も同様です。いくつもの外種皮がつぶれて歩道へ広がり、靴や自転車のタイヤなどによって別の場所へ運ばれれば、においを感じる範囲も広くなります。

黄色い部分は「果肉」ではない

銀杏のにおいを理解するとき、もう一つ知っておきたいのが、黄色いやわらかな部分の正体です。

見た目は梅やサクランボのようですが、植物学的には一般的な果物の「果肉」ではありません。

イチョウは裸子植物なので、被子植物のように子房が発達して果実になる仕組みを持っていません。

私たちが「銀杏の実」と呼んでいるものは植物学的には種子で、その外側の種皮が肉質になっています。

秋になると、この肉質の外種皮を持つ種子が熟して地面へ落ちます。落下後に外種皮が傷んだり踏まれたりすると、そこに含まれるにおいの元が周囲へ広がりやすくなります。

なお、この外種皮はにおいが強いだけでなく、触れるとかぶれることがあります。

外種皮に触れるとかぶれることがあるため、落ちた銀杏を扱う際は素手で直接触れないほうがよいでしょう。

まとめ

銀杏を踏むと強く臭うように感じるのは、踏んだことで突然まったく別の悪臭が生まれるためではありません。

銀杏の外側にある肉質の外種皮には、酪酸(ブタン酸)やヘキサン酸など、においに関係する複数の揮発性成分が含まれています。

熟した外種皮にはこうした成分があり、地面へ落ちたあとに傷んだり腐敗したりすると臭気が目立つようになります。

さらに踏まれると、外種皮がつぶれてにおいの元を含む部分が周囲へ広がるため、強く感じやすくなると考えられます。

靴底へ付着すれば、においの元がそのまま別の場所へ運ばれることもあります。

また、黄色くやわらかな部分は一般的な果物の果肉ではなく、種子を包む外種皮です。

「踏んだ瞬間に臭いが作られる」のではなく、もともとにおいに関係する成分を含んでいた外種皮をつぶすことで、そのにおいを周囲へ広げやすくしてしまうと見ると、秋のイチョウ並木で感じる強いにおいの理由が分かります。

参考情報

  • 国立科学博物館 筑波実験植物園「イチョウ(ギンナン)」
  • 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 九州支所「イチョウ」
  • 北海道森林管理局「イチョウ」
  • 近畿大学学術情報リポジトリ「銀杏の葉中の揮発成分とその生理活性について」
  • Journal of Ecology「International Biological Flora: Ginkgo biloba」

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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