求人票や転職サイトを見ていると、「みなし残業あり」「固定残業代含む」といった表記を見かけます。これは、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に組み込んでおく仕組みのことです。行政の説明では「固定残業代」や「定額残業制」という表現が中心で、厚生労働省は、固定残業代を「一定時間分までの時間外労働、休日労働及び深夜業に対する割増賃金として定額で支払われる賃金」と説明しています。
ここで勘違いしやすいのは、みなし残業が「最初から残業させる予定」や「残業代を払わなくてよい仕組み」を意味するわけではないことです。厚生労働省は、固定残業代を採用する場合でも、通常の賃金部分と固定残業代の部分を区別できること、さらに固定残業代が法定の計算で出した割増賃金額を下回るときは差額を支払う必要があると示しています。先に定額で払う仕組みではあっても、残業代という考え方そのものが消えるわけではありません。
みなし残業は「残業時間の予定」より「残業代の払い方」の話
名前だけ見ると、「この会社は毎月その時間だけ必ず残業させるのだろうか」と感じる人もいます。けれど、みなし残業は本来、残業時間の呼び名というより、割増賃金の支払い方の呼び名に近いものです。厚生労働省の労働者向けQ&Aでも、定額残業制は、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働の割増賃金を、あらかじめ定額の手当や基本給の一部として支給する制度だと説明されています。日常では「みなし残業」、行政説明では「固定残業代」「定額残業制」など、少し言い方が違うだけだと考えると分かりやすくなります。
そもそも、なぜこうした仕組みが使われるのか
みなし残業が広く使われる背景には、会社側にとって一定時間分の割増賃金を定額で組み込みやすいという面があります。給与体系としてはまとめやすく、月ごとの手当設計もそろえやすいからです。もっとも、定額で支払う仕組みを採っていても、実際の労働時間の把握や、固定時間を超えた分の追加支払いが不要になるわけではありません。支払い方を定額化する仕組みであって、労務管理そのものが軽くなる制度とまでは言えません。
みなし残業でも、超えた分は別に払う必要がある
いちばん誤解されやすいのは、「みなし残業があるなら、追加の残業代はもう出ないのでは」という点です。ここは厚生労働省がかなりはっきり示していて、固定残業時間を超えた時間外労働、法定休日労働、深夜労働には追加で割増賃金を支払う必要があります。月20時間分や月40時間分のみなし残業代が含まれていても、その時間を超えた分まで一括で済ませられるわけではありません。
さらに大事なのは、みなし残業代が何を含むのかも会社によって違いうることです。時間外労働分だけを定額化している場合もあれば、法定休日労働分や深夜労働分まで含める設計もありえます。厚生労働省は、固定残業代を、時間外労働だけでなく休日労働や深夜業まで含みうるものとして説明しており、その場合でも通常賃金部分と割増賃金部分を明確に区別する必要があるとしています。深夜労働や法定休日労働は割増率が高くなるため、実際の残業時間が設定時間に達していなくても、金額ベースでは固定残業代の範囲を超えることがあります。
残業が少ない月でも、固定部分は払われるのが基本
では、実際の残業が少なかった月はどうなるのか。京都労働局は、固定残業代とは「実際の時間外労働の有無にかかわらず、一定時間分の残業代(時間外労働、法定休日労働及び深夜労働分)が支払われるもの」と案内しています。制度が適法に設計されているなら、今月はほとんど残業しなかったからといって、最初から決められていた固定残業代を会社が勝手に減らしてよい、という話にはなりません。
ここが「得なのか損なのか」で話題になりやすいところです。残業が少ない月は固定部分がそのまま支払われるなら得に見えることもありますし、毎月固定時間近くまで残業し、さらに超過もしやすいなら負担感が強くなることもあります。制度名だけで良し悪しを決めるより、何時間分なのか、超過分はどう扱うのか、実際の残業実態がどうかで印象がかなり変わる仕組みです。
求人票では、何時間分でいくらかが分かる必要がある
みなし残業でもう一つ大事なのが、募集の段階での書き方です。京都労働局は、ハローワーク求人で固定残業代を採用する場合、固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働・法定休日労働・深夜労働分について追加で割増賃金を支払うことの明示が必要だと案内しています。さらに、基本給欄には固定残業代などの各種手当を含めず、固定残業代は手当欄に分けて記載するよう示しています。
このため、求人ではみなし残業代も含めた総額が目立ちやすく、固定残業代を含めない本来の基本給が見えにくくなっていることがあります。たとえば「月給30万円」と書かれていても、その中に月20時間分や月40時間分のみなし残業代が含まれているなら、見た目の印象と中身はかなり違います。みなし残業の有無だけで決めるより、基本給と固定残業代が分かれているか、何時間分なのかが書かれているか、超過分を別途支給すると明記されているかを見るほうが大切です。
見かけの月給が高くても、時給換算の印象は変わることがある
ここでもう一つ気をつけたいのが、みなし残業込みの月給は高く見えやすいという点です。厚生労働省は、最低賃金との比較では、月給制の場合は「月給÷1か月平均所定労働時間」で時間額に換算すると案内しています。また、最低賃金の対象となる賃金からは、時間外割増賃金、休日割増賃金、深夜割増賃金などを除いて考えると示しています。つまり、最低賃金との比較や時給感覚を見たいなら、みなし残業代込みの総額だけで見るのではなく、固定残業代を除いた基本給部分や、所定労働時間ベースで見たほうが実態に近づきます。
みなし残業込みの月給が高く見えても、固定残業代を除いた基本給ベースで時給換算すると印象が変わることは十分ありえます。見るべきなのは「総額が高そうに見えるか」ではなく、「通常賃金の部分がどれくらいか」「その金額を所定労働時間で割るとどう見えるか」です。
「みなし残業がある会社=違法」ではないが、曖昧だと危うい
みなし残業は、それだけで違法になるわけではありません。厚生労働省は、定額残業制そのものを一律に禁止しているわけではなく、法定の計算方法による額以上を支払い、通常賃金部分と割増賃金部分が明確に区別され、不足分や超過分も支払うなら、労基法37条違反にはならないと説明しています。
ただし、中身が曖昧だと一気にトラブルになりやすいのも事実です。基本給のどこまでが通常賃金で、どこからが固定残業代なのか分からない。何時間分なのかが明示されていない。超過分が払われない。こうした状態になると、みなし残業は単なる給与設計ではなく、未払い残業代の問題に近づいていきます。名前自体より、区別が明確か、計算根拠が見えるか、超えた分がどう扱われるかを見ることが大切です。
また、本来は会社側が計算し、管理するのが原則です。厚生労働省は、使用者には労働時間を適正に把握し、適切に管理する責務があると示しています。その一方で、自己申告制の不適正な運用などにより、未払い賃金や長時間労働の問題が生じうることも案内しています。給与明細や勤怠記録、労働条件通知書を自分でも確認しておく意味があるのは、このためです。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
みなし残業は、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に組み込んで支払う仕組みです。それ自体がすぐ違法というわけではありませんが、通常賃金と固定残業代の区別が明確であること、何時間分かが示されていること、超えた分は追加で払うことが必要です。法定休日労働や深夜労働の割増分まで含める設計もありえますが、その場合も内訳が分かることが大切です。
いちばん大事なのは、名前に引っぱられすぎないことかもしれません。見るべきなのは「みなし残業あり」という一言ではなく、その中身です。基本給はいくらか、何時間分か、超過分はどうなるか。みなし残業込みの月給が高く見えても、固定残業代を除いた基本給ベースや所定労働時間で見直すと印象が変わることもあります。そこまで見てはじめて、その会社の給与の仕組みが見えてきます。
参考情報
- 厚生労働省「固定残業代を支払うこととすれば、残業や休日勤務をさせても別途に残業代を支払わなくてよいでしょうか?」
- 厚生労働省「基本給に含めた割増賃金って何?」
- 京都労働局「事業主の方へ(固定残業代の明示方法等)」
- 厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」
