失敗したくないほど空回りするのはなぜ?意識しすぎる心理

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大事な発表で噛まないようにしようと思ったら、いつもより言葉が出てこない。簡単な作業なのに「絶対に間違えられない」と考えた途端、普段ならしないミスをしてしまう。

こうした経験には、単なる気の持ちようでは説明しきれない部分があります。

心理学では、プレッシャーによって注意がそれたり、普段は意識せずできている動作を細かく確認しすぎたりすることで、かえって実力を発揮しにくくなる現象が研究されています。

さらに「失敗してはいけない」と失敗を頭から追い出そうとすると、「失敗について考えていないか」を監視する必要が生まれ、かえってその対象が意識に浮かびやすくなることもあります。

失敗を避けたいと思うこと自体が問題なのではありません。空回りの一因になり得るのは、意識が「今やること」より「起きてほしくないこと」へ向きすぎたときです。

目次

失敗へのプレッシャーで注意の向きが変わることがある

大切な場面で普段より力を発揮できなくなる現象は、英語で「choking under pressure(プレッシャー下で実力を発揮できなくなること)」と呼ばれます。

プレッシャーには、本人の性格だけでは説明できないさまざまな条件が関係します。

試験の点数、仕事の評価、試合の勝敗、人前で見られている状況など、うまくやることの重要性が高くなる場面では、自分の結果や行動を普段以上に意識しやすくなります。

報酬がかかっている、周囲から評価される、仲間の期待を背負っているといった条件もプレッシャーになり得ます。

そして、プレッシャーを感じたときに何が起こるかについても、一つの説明だけがあるわけではありません。

代表的なのが、失敗への心配に注意を取られることと、自分の動きを意識しすぎることです。

失敗を考えるぶん、目の前の作業へ使える注意が減る

「間違えたらどうしよう」

「失敗したら恥ずかしい」

「ここでミスしたら評価が下がる」

こうした考えが頭を占めると、目の前の作業だけに集中することが難しくなります。

特に計算や問題解決のように、情報を一時的に覚えながら処理する作業では、心配事も同時に抱えることで使える注意の余裕が減り、普段より処理しにくくなる可能性があります。

たとえば発表中に、

「次の文章は何だったかな」

と考えるのは、発表そのものに関係しています。

ところが、

「今の言い方は変じゃなかったか」

「聞いている人はどう思っただろう」

「次も失敗したらどうしよう」

まで同時に考え始めると、頭の中で扱う情報が増えていきます。

本来なら発表内容へ向けたい注意の一部が、「失敗しないか」「どう評価されているか」の確認にも使われてしまうわけです。

失敗への心配が大きくなると、目の前の作業だけでなく、失敗そのものにも注意を割いてしまうことがあります。

慣れたことを細かく意識すると崩れる場合もある

もう一つ興味深いのが、普段なら意識せずできる動作を、本番になって細かく確認し始める場合です。

たとえば歩くときに、

「まず右足を出して、次に左足を前へ出して……」

と一歩ずつ考える人はほとんどいません。

練習を重ねたスポーツの動きや楽器演奏、慣れたパソコン操作などにも、繰り返すうちに意識せず進められる部分が増えていきます。

ところが強いプレッシャーを感じると、

「手はこの位置でいいか」

「次はこの動きだったか」

「いつも通りできているか」

と一つひとつ確認し始めることがあります。

こうした過度な自己監視が、すでに身についた動作の滑らかさを邪魔するという考え方があります。

もちろん、初心者が新しい技能を覚えるときには手順を確認する必要があります。

「考えないほうがうまくいく」という話ではありません。普段なら意識せずできるほど慣れている動作を、本番だけ細かく操作し直そうとすると、かえってぎこちなくなる場合があるということです。

どの仕組みが目立つかは、取り組んでいる課題によっても変わります。

計算や複雑な問題では心配に注意を取られる影響が目立つことがあります。一方、十分に練習した運動などでは、自分の動きを監視しすぎることが関係する場合もあります。

「失敗するな」と考えるほど失敗が頭から離れなくなることがある

空回りを考えるうえでもう一つ関係するのが、「考えないようにする」という行為です。

心理学者ダニエル・ウェグナーらは1980年代、あることを意識的に考えないようにするとどうなるのかを調べました。

有名なのが「白い熊」を使った実験です。

1987年に発表された研究では、参加者に白い熊について考えないよう求めても、完全に頭から追い出すことは難しく、思考を抑えた後には白い熊について考える回数が増える反動も確認されました。

その後ウェグナーは、考えや感情を意識的に制御しようとしたとき、望んだ方向とは反対の状態が現れる仕組みを「皮肉過程理論」として説明しています。

「失敗を考えない」ためにも失敗を監視する必要がある

なぜ「考えるな」と思うほど意識してしまうのでしょうか。

皮肉過程理論では、意識を別の方向へ向けようとする働きとは別に、禁止した考えが浮かんでいないかを監視する働きがあると考えます。

つまり、

「失敗を考えないようにしよう」

と決めると、

「今、失敗について考えていないか」

を確かめる必要が生まれます。

ところが、それを確かめるには「失敗」という対象を頭の中で探さなければなりません。

「噛まないようにしよう」と繰り返すほど「噛む」が頭に残り、「ミスするな」と考え続けるほどミスを意識する。

避けたいことを頭から追い出そうとしているのに、それを監視するために何度も意識するという少し皮肉な状態です。

「考えないようにしている最中に浮かびやすくなること」と、「考えないようにした後で思い出しやすくなること」は同じ現象ではありません。

特に頭の中で別の処理も必要な状況など、使える注意に余裕が少ない条件では、避けたい考えが意識へ浮かびやすくなることがあります。

ただし、「〜するな」と考えたら必ず反対の行動をしてしまうわけではありません。

否定的な指示を受けても、避けようとした方向のミスが必ず増えるわけではなく、課題や経験、そのときの状況によって影響は変わります。

一度ミスすると「また失敗するかも」が気になりやすくなる

本番で最初の一回を失敗した後、その後まで調子を崩したように感じることがあります。

一度つまずいた後は、

「また間違えるかもしれない」

「さっきの失敗を繰り返さないようにしよう」

という意識が、それまで以上に強くなることがあります。

失敗したという情報を受けた後、次に失敗する可能性や失敗した場合の影響を大きく見積もり、不安が高まることを示した研究もあります。

ただし、一度のミスで不安が高まることはあっても、それだけで次の失敗が決まるわけではありません。

最初の失敗そのものより、その後も「また失敗しないか」を何度も確かめ続けることで、目の前の作業以外にも注意を使ってしまう場合があります。

たとえば発表で一度言葉に詰まった後、

「また止まったらどうしよう」

と考えながら残りを話せば、その心配にも注意を使うことになります。

スポーツで一度ミスした後に、

「さっきと同じ動きになっていないか」

と身体の動きを監視し続ければ、普段とは違う意識の使い方になるかもしれません。

一度のミスを振り返ること自体が悪いわけではありません。

ただ、本番の途中では原因を細かく分析するより、次に必要な行動へ注意を戻すほうが進みやすい場面もあります。

「さっき失敗したから次も失敗する」と考えるのではなく、一回の結果と次の一回を分けて考えることも、空回りを広げないための考え方の一つです。

プレッシャーがあれば必ず失敗するわけではない

ここまで読むと、「緊張しないほうがいい」と思うかもしれません。

しかし、プレッシャーを感じたからといって、必ず実力が落ちるわけではありません。

研究でも、プレッシャーによって成績が下がる課題がある一方、はっきりした低下が見られない場合があります。

課題の種類、本人の経験、求められる注意の使い方などによって影響は変わります。

また、プレッシャーによって注意の働きが変わっても、それがそのまま成績低下につながるとは限りません。

そのため、

緊張=失敗の原因

と決めつける必要はありません。

見るべきなのは、緊張したかどうかだけではなく、その結果として注意がどこへ向かったのかです。

「次にやること」へ意識が向いているのか。

それとも「間違っていないか」「どう評価されるか」「また失敗しないか」の確認へ意識が向いているのか。

同じように緊張している場面でも、頭の中で何を追いかけているかによって、その後の動き方は変わってきます。

空回りしそうなときは「次の行動」へ意識を戻す考え方もある

失敗への意識を完全になくそうとすると、「失敗について考えないこと」自体が新しい課題になってしまいます。

そこで、「何をしてはいけないか」だけではなく、「次に何をするか」へ意識を移す考え方があります。

たとえば、

  • 「噛まない」ではなく「最初の一文をゆっくり話す」
  • 「計算を間違えない」ではなく「最後に符号を見直す」
  • 「焦らない」ではなく「問題文を最後まで読む」
  • 「ミスショットをしない」ではなく「狙う場所を見る」

という形です。

避けたい失敗ではなく、実際に行う動作や注意を向ける場所へ言い換えています。

特に運動課題では、「してはいけない動作」だけを意識させるより、実際に狙う場所や行う動作へ注意を向ける方法が研究されています。

ただし、どんな人や課題でも同じ方法が有効になるとまではいえません。

これは、「失敗について考えてはいけない」という意味ではありません。

失敗について考えている自分をさらに監視するより、今できる一つの行動へ戻ることで、頭の中で扱う対象を絞りやすくなるという考え方です。

また、すでに十分練習して身についた動作では、本番だけ手順を一から細かく操作し直さないことも一つの方法です。

一方、新しく覚えている途中の作業なら、手順を確認することが役立つ場面もあります。

「意識するか、しないか」の二択ではありません。

その場面で本当に注意を向ける必要があるものは何かを選ぶことが大切です。

まとめ

失敗したくないほど空回りする背景の一つとして、プレッシャーによる注意の変化が考えられます。

失敗後の心配へ注意を取られる場合もあれば、慣れた動きを細かく監視しすぎる場合もあります。また、「考えないようにする」ことで、逆に失敗を意識しやすくなることもあります。

一度ミスして不安が高まっても、それだけで次の失敗が決まるわけではありません。緊張したから必ず実力が落ちるとも限りません。

本来は目の前の作業へ使いたかった注意が、「失敗していないか」の確認へ向きすぎると、普段とは違う動き方になることがあります。

空回りしそうなときは、失敗を頭から消そうとするより、「次に何をするか」という具体的な行動へ意識を戻す。そんな考え方が、普段の流れへ戻るきっかけになる場合があります。

参考情報

  • 日本心理学会「アスリートのあがりを簡便に防止する」
  • DeCaro, M. S., Thomas, R. D., Albert, N. B., & Beilock, S. L.(2011)“Choking under pressure: Multiple routes to skill failure.” Journal of Experimental Psychology: General.
  • Wegner, D. M., Schneider, D. J., Carter, S. R., & White, T. L.(1987)“Paradoxical effects of thought suppression.” Journal of Personality and Social Psychology.
  • Wegner, D. M.(1994)“Ironic processes of mental control.” Psychological Review.
  • Wang, D. A., Hagger, M. S., & Chatzisarantis, N. L. D.(2020)“Ironic Effects of Thought Suppression: A Meta-Analysis.” Perspectives on Psychological Science.
  • Abd Rahman, H. R., Liu, J., Han, F., & Wilson, M. R.(2023)“The effect of performance pressure and error-feedback on anxiety and performance in an interceptive task.” Frontiers in Psychology.

この記事を書いた人

気になったテーマを中心に、公開情報や資料を読みながら記事をまとめています。背景や違いが見えにくい話題も、公式サイトや公開資料を確認しつつ、できるだけわかりやすく整理してお届けしています。

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