6月18日は、International Day for Countering Hate Speech(ヘイトスピーチに対抗する国際デー)です。日本語では「ヘイトスピーチに対抗する国際デー」「ヘイトスピーチに反対する国際デー」と紹介されることがあります。
ヘイトスピーチと聞くと、遠い国際問題のように感じるかもしれません。けれど、国籍、民族、宗教、性別、出自などを理由に人や集団を攻撃する言葉は、日常の会話やネット上の投稿にも入り込むことがあります。
この国際デーは、ただ「悪い言葉を使わない日」ではありません。言葉が人を傷つけ、社会の分断を広げることがある一方で、言葉によって人を守り、対話をつくることもできる。そのことを考えるための日です。
6月18日はヘイトスピーチに対抗する国際デー
International Day for Countering Hate Speechは、国連総会の決議によって定められた国際デーです。毎年6月18日に、ヘイトスピーチの広がりを防ぎ、差別や排除につながる言葉について考える日とされています。
この日付は、2019年6月18日に始まった「国連ヘイトスピーチ戦略・行動計画」と関係しています。国連は、ヘイトスピーチを社会の分断や暴力につながる可能性のある問題としてとらえ、教育、対話、情報を見極める力などを通じた対抗を重視しています。
「Countering」は、日本語にすると「対抗する」「立ち向かう」「広がりを抑える」といった意味合いがあります。つまり、この国際デーはヘイトスピーチをただ罰する日というより、差別的な言葉が広がらないように社会全体で考える日と見るとわかりやすくなります。
国際デーというと、大きな式典や国際機関の取り組みを思い浮かべるかもしれません。もちろん、政府や団体、教育機関、メディア、SNS運営会社などの役割は大きいです。ただ、ヘイトスピーチは日常の言葉や投稿から広がることもあります。
だからこそ、この日は一人ひとりの言葉の選び方にも関係しています。
誰かを属性で決めつけない。
差別的な投稿をそのまま拡散しない。
見かけたときに、少し立ち止まって考える。
そうした小さな行動も、ヘイトスピーチに対抗する一部になります。
ヘイトスピーチとは何を指すのか
ヘイトスピーチは、単に「嫌な言葉」「乱暴な言葉」という意味ではありません。
細かな線引きは、国や制度、文脈によって異なります。そのため、ここでは法律上の判断ではなく、言葉が人や集団をどう扱うかという視点で考えます。
国連の説明では、ヘイトスピーチは、宗教、民族、国籍、人種、肌の色、出自、性別など、その人や集団の属性に関係して、攻撃したり、侮辱的・差別的な言葉を使ったりする表現とされています。
たとえば、ある人の意見に反論すること自体はヘイトスピーチとは限りません。政策、作品、企業の対応、発言内容などを批判することもあります。
問題になりやすいのは、相手の考えではなく、本人が持っている属性や、本人には変えにくい背景を理由に、集団ごと攻撃する言葉です。
「その考えには反対です」と言うことと、ある属性の人たちをまとめて見下すことは違います。
この違いを知っておくと、ヘイトスピーチを考えるときに極端な受け取り方をしにくくなります。何でも批判できなくなるという話ではありません。批判の対象が「行動や意見」なのか、「属性そのもの」なのかを見ることが大切です。
なぜヘイトスピーチが問題になるのか
ヘイトスピーチが問題になるのは、言葉だけで終わらないことがあるからです。
誰かを一人の人間として見ず、「あの集団は危ない」といった形で人をひとまとめにしてしまうと、相手への想像力が弱まります。その言葉を何度も見聞きするうちに、差別や排除が当たり前のように感じられてしまうこともあります。
特にネット上では、強い言葉ほど目立ちやすく、短い投稿でも一気に広がります。SNS、動画、コメント欄、引用投稿などを通じて、もともとの文脈から切り離された言葉が拡散されることもあります。
もちろん、すべての不快な発言が同じ重さを持つわけではありません。冗談のつもりだった言葉、知識不足から出た言葉、明確に敵意をあおる言葉では、背景も影響も違います。
それでも、繰り返される差別的な言葉は、受け取る側に不安や孤立感を与えます。周囲の人にとっても、「この場所では自分も攻撃されるかもしれない」と感じるきっかけになります。
ヘイトスピーチは、特定の誰かを傷つけるだけではありません。その場にいる人たちの安心感や信頼感も損ないやすいのです。
言葉は空気をつくる
人は、周囲で使われている言葉に影響されます。
コメント欄で誰かを見下す言葉が続くと、それがその場の空気になります。最初は違和感を持っていた人も、何度も目にすると「こういう言い方をしてもいい場所なのか」と感じてしまうことがあります。
逆に、差別的な言葉を広げない空気がある場所では、過激な言葉は目立ちにくくなります。誰かが冷静に止めたり、別の言い方を選んだりすることで、場の流れは少し変わります。
ヘイトスピーチに対抗するというと、特別な活動をしなければならないように聞こえるかもしれません。けれど、日常の場では「その言い方は少し違うかもしれない」と考えることも、十分に意味があります。
言葉は、誰かが居づらくなる空気をつくることがあります。
同時に、誰かが安心していられる空気をつくることもできます。
6月18日は、その当たり前のようで見落としやすい力に気づく日でもあります。
批判とヘイトスピーチは何が違うのか
ヘイトスピーチを考えるとき、多くの人が気にするのが「批判までできなくなるのでは」という点です。
ここは分けて考える必要があります。
社会の問題、政治、企業、作品、学校、職場、SNS上の発言などに対して、意見を言うことは大切です。間違っていると感じたことに対して、反論したり、改善を求めたりすることもあります。
ただし、批判が相手の属性への攻撃に変わると、話は別になります。
ある人の発言に問題があるなら、その発言のどこが問題なのかを示すことができます。けれど、そこから国籍、民族、宗教、性別、出自などを持ち出して、その属性の人たち全体を下げる言い方をすれば、差別的な表現になりやすくなります。
批判は、行動や発言に向けることができます。
ヘイトスピーチは、人や集団を属性ごと否定する言い方になりやすいものです。
どこに向けた批判なのかを意識すると、言いたいことを保ったまま、差別的な表現を避けやすくなります。
「自由な発言」との関係
ヘイトスピーチへの対抗は、自由な発言をすべて制限する話ではありません。
社会の中では、いろいろな意見があります。厳しい批判が必要な場面もありますし、問題を指摘する言葉が社会を変えることもあります。だからこそ、ヘイトスピーチへの対応では、表現の自由との関係も慎重に考える必要があります。
個人の日常では、「これは法律上どう判断されるか」だけで考えるよりも、まず「その言葉は、属性を理由に人や集団を攻撃していないか」「必要以上に敵意を広げていないか」を考えるほうが現実的です。
発言の自由は大切です。
その一方で、言葉を受け取る人の尊厳も見落とせません。
この両方を意識すると、言葉を選ぶときの視点が少し変わります。
ネット時代に広がりやすい理由
ヘイトスピーチが現代で大きな問題になりやすい理由の一つは、ネット上で言葉が広がる速さです。
昔なら、限られた場所でしか届かなかった言葉も、SNSでは一瞬で多くの人に届きます。画像、短い動画、切り抜き、ミーム、引用投稿などによって、元の文脈から切り離されて広がることもあります。
さらに、強い言葉は反応を集めやすいです。怒り、不安、恐怖を刺激する投稿は、つい読まれたり、共有されたりします。本人は「問題を知らせたい」と思っていても、結果として差別的な言葉を広げる手助けになることもあります。
ヘイトスピーチは、発信した人だけの問題ではありません。
それを面白がって広める人、怒りながら引用する人、確認せずに共有する人がいることで、さらに広がっていきます。
対抗するためには、強い言葉を強い言葉で返すだけでは十分ではありません。内容を確認する、広げない、通報する、落ち着いた言葉で補足する。そうした行動のほうが、場を守る力になることがあります。
拡散しないことも対抗になる
ヘイトスピーチを見かけると、怒りを感じて共有したくなることがあります。
「こんなことを言っている人がいる」と知らせたい気持ちは理解できます。ただ、その投稿を引用したり、スクリーンショットで広めたりすると、結果的に差別的な言葉をより多くの人の目に触れさせることがあります。
もちろん、社会的に問題を知らせる必要がある場面もあります。けれど、日常のSNS利用では、むやみに拡散しないことも大切です。
広げる前に、少し考える。
必要ならプラットフォームの通報機能を使う。
信頼できる情報源で確認する。
攻撃対象になっている人をさらにさらさない。
こうした行動は、派手ではありません。それでも、ヘイトスピーチの広がりを止めるうえでは大事な選択です。
私たちにできる小さな対抗
ヘイトスピーチに対抗するというと、大きな運動や専門的な知識が必要に思えるかもしれません。
しかし、日常の中でできることもあります。
まず、自分が差別的な言葉を使っていないかを見直すことです。昔からの言い回しや冗談の中にも、誰かの属性を軽く扱う表現が残っていることがあります。悪気がなかったとしても、受け取る人には痛みとして残る場合があります。
次に、見かけた言葉をすぐに広めないことです。怒りや驚きで反応する前に、それを共有することで誰が傷つくのかを考えるだけでも、広がり方は変わります。
また、冷静な言葉を選ぶこともできます。誰かの発言に反対するときも、「その属性の人は」とまとめるのではなく、「その発言のこの部分に問題がある」と具体的に言う。これだけで、批判はより伝わりやすくなります。
さらに、攻撃されている人を一人にしないことも大切です。直接争いに入らなくても、支える言葉を送る、差別的な投稿を通報する、信頼できる相談先につなぐなど、できることはあります。
情報を見極め、責任を持って共有する力も、ヘイトスピーチへの対抗に役立ちます。SNSでは、反応する前に一度確認するだけでも、差別的な言葉の広がり方を変えられることがあります。
言い返すより、場を荒らさない選択もある
差別的な言葉を見たとき、すぐに反論したくなることがあります。
けれど、相手が挑発を目的にしている場合、強い言葉で返すほど場が荒れることもあります。反論が必要な場面はありますが、いつも正面からぶつかる必要はありません。
通報する。
距離を置く。
信頼できる人に共有する。
落ち着いた言葉で補足する。
攻撃されている人を支える。
これらも、ヘイトスピーチへの対抗です。
大切なのは、差別的な言葉をさらに広げないことです。怒りを持つこと自体はおかしくありません。ただ、その怒りをどの形で出すかによって、場の空気は変わります。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
6月18日のInternational Day for Countering Hate Speechは、ヘイトスピーチの広がりを防ぎ、差別や排除につながる言葉について考える国際デーです。
ヘイトスピーチは、ただの悪口ではありません。国籍、民族、宗教、性別、出自などの属性を理由に、人や集団を攻撃したり見下したりする言葉です。
批判や意見を言うことは大切です。ただし、行動や発言への批判が、属性そのものへの攻撃に変わると、誰かの尊厳を傷つけ、その場にいる人の安心感も損ないやすくなります。
言葉は、人を遠ざけることも、人を守ることもできます。6月18日は、その力を少し立ち止まって考える日です。
参考情報
- United Nations「International Day for Countering Hate Speech」
- United Nations「What is hate speech?」
- United Nations「International human rights law」
- UNESCO「Countering hate speech」
- UNESCO「What you need to know about hate speech」
