コークスという名前は、あまり聞きなじみのない響きかもしれません。石炭と密接に関係しているものの、コークスは石炭そのものではなく、石炭を高温で蒸し焼きにして作る工業材料です。
特に製鉄では、鉄鉱石から鉄を取り出すために欠かせない役割を持っています。石炭との違いや作り方を知ると、コークスがただ燃えるだけの材料ではなく、鉄づくりの中で複数の働きを担っていることが分かります。
コークスとは石炭を加工して作る黒い材料
コークスとは、石炭を高温で熱して作る黒い固体の材料です。日本コークス工業の製造工程では、粉砕・配合した石炭をコークス炉に入れ、約1,200℃の高温で蒸し焼きにし、約17時間後に赤熱したコークスとして取り出す流れが紹介されています。
ここでいう「蒸し焼き」は、料理のように水蒸気で加熱する意味ではありません。空気をほとんど入れない状態で高温にし、石炭の中にある揮発しやすい成分を抜いていく処理です。資源エネルギー庁も、大気を遮断して石炭を蒸し焼きにすると、含有物がガスとして抜け、炭素部分が残ると説明しています。
見た目だけなら、石炭もコークスも黒っぽい塊です。けれど、石炭は自然にできた資源であり、コークスはその石炭を製鉄などに使いやすい性質へ変えた材料です。そのため、コークスは石炭の別名ではなく、石炭を用途に合わせて加工したものといえます。
石炭との違いは「天然資源」か「加工材料」か
石炭は、植物が地中に埋もれ、長い時間をかけて炭素分の多い可燃性の岩石状物質になったものです。資源エネルギー庁では、石炭は石炭化度や用途によって分類され、用途では主に「原料炭」と「一般炭」に分けられると説明されています。
一般炭は、主に発電用燃料などに使われる石炭です。一方の原料炭は、主に製鉄用コークスの原料として使われる石炭です。石炭には「燃やして熱を得るもの」と「コークスに加工して製鉄に使うもの」があります。
コークスは、この原料炭を加工して作られます。石炭が自然にできた燃える資源だとすれば、コークスは鉄を作るために性質を整えた炭素材料です。もとは石炭でも、そのまま使う場合と、加工して別の働きを持たせる場合では役割が変わります。
コークスに向いた石炭と向かない石炭がある
石炭なら何でも製鉄用コークスに向いているわけではありません。コークスの原料として使われる石炭は、一般に「原料炭」と呼ばれます。資源エネルギー庁は、原料炭を一般的に粘結性のある石炭とし、主に製鉄用コークスの原料として使われると説明しています。
粘結性とは、石炭を熱したときにいったん軟らかくなり、粒同士がくっついて、冷えると硬い塊になりやすい性質です。この性質があると、高炉の中で崩れにくい強いコークスを作りやすくなります。
一方で、粘結性が低い石炭は、熱しても十分に固まりにくく、強いコークスを作るには工夫が必要です。そのため実際のコークスづくりでは、石炭の種類を選び、複数の銘柄を配合して品質を調整します。日本コークス工業の工程でも、入荷した石炭を品質チェックし、求められるコークスの品質に合わせて配合すると紹介されています。
コークスは石炭より高温になるのか
コークスは石炭を加工して作るため、「石炭より高温になる燃料なのか」と感じる人もいるかもしれません。実際には、どんな条件でもコークスのほうが必ず高温になる、とは言い切れません。燃焼温度は、燃料の性質だけでなく、空気の量、炉の構造、水分や灰分の量、燃え方によっても変わります。
コークスは、高炉の中で高温にさらされても安定して働きやすい材料です。石炭を蒸し焼きにすると、揮発しやすい成分や水分が抜け、炭素分の多い硬い塊になります。そのため、燃料として熱を出すだけでなく、鉄鉱石から酸素を取り除く反応にも関わりやすくなります。
製鉄でコークスが重視される理由は、温度だけではありません。高温の炉内で崩れにくく、上から積み重なる原料を支え、ガスや溶けた鉄の通り道を保てることも重要です。日本製鉄の資料でも、石炭をそのまま高炉に入れると粉状になりやすく目詰まりを起こすため、強度のあるコークスにして高炉へ入れることが説明されています。
コークスはどうやって作られるのか
コークスづくりでは、まず原料となる石炭を受け入れ、品質を確認します。その後、石炭を細かく砕き、複数の銘柄を配合します。これは、完成するコークスの強さや性質を安定させるためです。
配合された石炭は、コークス炉に入れられ、高温で長時間加熱されます。空気をほとんど入れずに熱することで、石炭は燃え尽きず、炭素分の多い固体として残ります。こうしてできたものがコークスです。
このとき、コークスだけができるわけではありません。コークス炉ガスやタールなどの副産物も発生します。こうした副産物は、工業的に回収・利用されることがあります。コークスづくりは、単に石炭を燃やす工程ではなく、石炭をいくつもの用途に分けて活用する工程でもあります。
製鉄でコークスが欠かせない理由
コークスの存在感が大きいのは、鉄づくりの現場です。鉄を作る高炉では、鉄鉱石、コークス、石灰石などを入れます。鉄鉱石には酸素と結びついた鉄が含まれているため、鉄だけを取り出すには酸素を取り除く必要があります。この働きを「還元」といいます。
資源エネルギー庁は、製鉄では石炭から作ったコークスを使い、鉄鉱石に含まれる酸素を取り除くことが重要だと説明しています。コークスは燃えて高い熱を出すだけでなく、鉄鉱石から酸素を取り除く反応にも関わります。
さらに、高炉の中では大量の原料が上から積み重なります。そこでコークスがすぐに崩れてしまうと、ガスの通り道がふさがり、反応が進みにくくなります。日本コークス工業は、高炉用コークスについて、鉄鉱石を溶かす熱源、酸素を取り除く還元剤、溶けた鉄や還元ガスの通路を確保する役割を持つと説明しています。
この複数の働きがあるため、コークスは製鉄で特別な材料として扱われています。燃えるだけでなく、反応を助け、炉内の空間を保つ。石炭をそのまま使う場合との大きな違いはここにあります。
石炭とコークスの違いを表で見る
| 項目 | 石炭 | コークス |
|---|---|---|
| 成り立ち | 植物が長い時間をかけて変化した天然資源 | 石炭を高温で蒸し焼きにして作る材料 |
| 主な用途 | 発電、産業用燃料、コークス原料など | 製鉄、鋳物、非鉄精錬など |
| 製鉄での位置づけ | コークスを作る原料になる | 高炉で熱源・還元剤・通路確保の役割を持つ |
| 性質のイメージ | 種類によって性質が大きく違う燃料資源 | 高温の炉内で使えるように整えた炭素材料 |
石炭とコークスは関係の深い材料ですが、同じものではありません。石炭は出発点であり、コークスは製鉄などに合わせて加工された材料です。
コークスを知ると鉄づくりが見えやすくなる
コークスは長く製鉄を支えてきた材料です。一方で、近年は二酸化炭素の排出を減らすため、製鉄方法の見直しも進められています。資源エネルギー庁は、従来の製鉄ではコークスを使って還元を行う一方、水素を活用して鉄鉱石を還元する技術の開発が進められていると説明しています。
ただし、これはコークスの役割がすぐになくなるという話ではありません。鉄は建物、自動車、機械、インフラなど幅広い分野に使われており、製鉄の仕組みは大規模な設備と深く結びついています。
コークスの役割を知ると、鉄がどのように作られ、ものづくりの土台がどのように支えられているのかも見えやすくなります。黒い塊のように見えるコークスは、現代の産業を支える目立たない重要材料のひとつです。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
コークスは、石炭を高温で蒸し焼きにして作る黒い固体の材料です。石炭と見た目は似ていますが、石炭が天然資源であるのに対し、コークスは製鉄などに使いやすいよう加工された工業材料です。
また、石炭なら何でも製鉄用コークスに向いているわけではありません。熱したときに粒同士がくっつき、硬い塊になりやすい原料炭が重要になります。
高炉では、コークスが熱源となり、鉄鉱石から酸素を取り除く還元剤として働きます。さらに、炉内のガスや溶けた鉄の通り道を保つ働きもあります。コークスは、燃えるだけの材料ではなく、鉄づくりを支える重要な工業材料です。
参考情報
- 資源エネルギー庁「石炭とは」
- 日本コークス工業「事業紹介|コークス事業」
- 資源エネルギー庁「水素を使った革新的技術で鉄鋼業の低炭素化に挑戦」
- 日本製鉄「革新的技術開発によるCO2削減」
- 資源エネルギー庁「水素を活用した製鉄技術、今どこまで進んでる?」
- 日本製鉄「鉄鉱石から鉄を生み出す」
