円周率 π は、まず円周を直径で割った比として定まる数です。ここが出発点なので、π は最初から一つの公式で生まれる数というより、円の性質から定まり、そのあとに近似のしかたや計算式がいくつも作られてきた数だと考えるほうが分かりやすいです。昔ながらの求め方から、現代の大型計算で使われる公式までつなげて見ると、円周率の見え方はかなり変わります。
円周率のいちばん基本の意味
円周率 π は、円の大きさが変わっても変わらない、円周 ÷ 直径 という一定の比です。つまり、π はどこか別の場所から持ってくる数字ではなく、円という図形に最初から含まれている性質です。NIST も π を円周と直径の比として説明していて、DLMF でも同じ前提で扱われています。
ここを出発点にすると、「円周率の求め方」が一つに見えにくい理由も見えてきます。実際に測って近い値を出すこともできますし、図形で挟み込んで近づくこともできます。さらに数学では、無限級数、積、極限、反復法などで表すこともできます。MathWorld も、π には多くの種類の公式があるとまとめています。
いちばん素朴な求め方は、測って割ること
考え方だけなら、円周率の求め方はとても単純です。円のまわりの長さを測って、それを直径で割れば π に近い値が出ます。初期の π の値は、ほぼ確実にこうした測定から得られたと考えられていて、MacTutor も古代の資料に近似値が見られると説明しています。
ただ、この方法には誤差があります。円周そのものをぴったり測るのは難しく、道具にも限界があるからです。そこで数学では、円をただ測るのではなく、別の図形で挟み込んで近づく方法が発達しました。
昔ながらの本格的な求め方は、多角形で挟み込む方法
古典的な求め方として有名なのが、アルキメデスの方法です。円の内側に正多角形を入れ、外側にも正多角形をかぶせると、内側の周の長さは本当の円周より短く、外側の周の長さは本当の円周より長くなります。辺の数を増やしていけば、この二つの値はどんどん円周に近づいていきます。こうして円周率を上下から絞り込むわけです。MacTutor は、アルキメデスがこの方法で
という評価を得たことを紹介しています。
このやり方のよいところは、円周率を最初から知っていなくても近似を進められる点です。扱いやすい多角形を使って少しずつ円に迫っていくので、円周率はもともと「近づきながら求める数」だったことがよく分かります。
式で表すことはできるのか
できます。しかも、一つだけではありません。MathWorld は、π には無限級数、積、幾何的構成、極限、特別な値、反復法など、多くの種類の公式があるとまとめています。つまり、「円周率の式がない」のではなく、円周率を表す式がたくさんあるのです。
ここが検索で迷いやすいところでもあります。多くの人が思い浮かべるのは、四則演算だけで一発で値が出る短い式ですが、実際の π の公式は、無限級数や極限や反復計算の形が多く、学校で習う「公式に代入して終わり」という感覚とはかなり違います。そのため、検索しても“唯一の式”として見えにくくなります。
実際に使われてきた円周率の公式
現代の円周率計算では、円を実際に測るのではなく、高速に収束する無限級数を使って桁を増やしていきます。y-cruncher の記録計算ルールでは、主計算に組み込みの Chudnovsky 公式 または Ramanujan 公式 を使うことが示されています。また FAQ では、デスクトップ系の記録計算では Chudnovsky、スーパーコンピューターや高性能計算環境(HPC)では 算術幾何平均(AGM) が話題になることがあると説明されています。つまり、現代の円周率計算は一つの式だけで決まっているわけではなく、計算環境によって主役が少し変わります。
Ramanujan の代表式は、たとえば次の形です。
Chudnovsky 型の式は、たとえば次のように表されます。
Stanford の解説ページでは、Ramanujan の公式と Chudnovsky 型の公式が並べて紹介されています。y-cruncher の内部資料でも、Chudnovsky と Ramanujan は主要な π 公式として挙げられています。
何兆桁もの計算ができるのはなぜか
円周率の記録が話題になると、巨大な計算機でひたすら長く計算しているように見えます。実際には、ただ時間をかけるだけではなく、収束が速い公式とそれを高速に処理する実装の両方が重要です。y-cruncher は FAQ で、デスクトップ系では Chudnovsky、スーパーコンピューター系では AGM が話題になりやすい事情を説明しています。
つまり、現代の大規模な円周率計算は、昔のように測ることでも、多角形で囲うことでもなく、高速に収束する公式を、大量の桁に耐える形で計算機に実装することに近いわけです。だからこそ、何兆桁という記録が生まれますし、逆に「円周率の式」と検索したときに、日常の感覚と少し違う数式ばかりが並びやすくもなります。
π が終わらないことも、「一つの式」に見えにくい理由につながる
円周率の小数がどこまでも続くのは、π が無理数だからです。さらに MacTutor は、1761年にランベルトが π の無理性を示し、1882年にリンデマンが π が超越数であることを示したと説明しています。超越数とは、整数係数の多項式方程式の解にならない数です。
このため、π には「有限で終わる小数」や「循環小数」や「簡単な代数方程式の解」のような収まり方はありません。もちろん、π を正確に表す式はあります。けれど、それは無限級数や積や極限や反復の形を取ることが多いので、日常的に思い浮かべる“短い一行の式”とは印象が違います。ここが、思っていた形の式に出会いにくい理由の一つです。
そもそも「求める」とは何を意味するのか
円周率の「求め方」が人によって違って見えるのは、求めるという言葉の意味が一つではないからです。実際に測って近い値を出すことも、図形で上下から挟むことも、無限級数で好きな桁数まで計算することも、数学ではどれも π に迫る方法です。さらに、そもそも円周と直径の比として定義すること自体が、円周率を与える出発点でもあります。DLMF は、π を円周と直径の比として示したうえで、解析的には多くの形で扱えることを示しています。
そのため、π は一つの代表式だけで捉えにくい数です。学校の中では記号のように見えても、数学の中では定義、近似、無限級数、反復法といった複数の入口を持っています。一つの形だけを期待すると、かえって見えにくくなります。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
円周率 π のいちばん基本の意味は、円周を直径で割ったときに出る一定の比です。昔は測って近づき、アルキメデスは多角形で挟み込み、近代以降は無限級数や積で表し、現代では Chudnovsky や Ramanujan のような高速に収束する公式を使って大量の桁を計算します。π がまず定義される数であり、しかも表し方が一つではないからこそ、「これが唯一の式」とは見えにくくなります。円周率は、ただ暗記する数字というより、円から生まれ、いろいろな方法で近づいていく数として見るとつかみやすくなります。
参考情報
- NIST Digital Library of Mathematical Functions「§20.2 Definitions and Periodic Properties」
- NIST「A Slice of Math Functions for Pi Day」
- MacTutor History of Mathematics「Pi through the ages」
- Stanford University「Pi – Ramanujan’s Formula for Pi」
- y-cruncher「Formulas and Algorithms」
- y-cruncher「FAQ」
