SNSで誰かの発言や行動が一気に批判を集めると、見ないつもりでもつい開いてしまう。気分がよくなるわけでもないのに、コメント欄まで追ってしまう。そんな経験は珍しくありません。
この反応は、単に野次馬だからとか、性格の問題だけで片づけられるものではありません。人はもともと、負の情報に注意を向けやすく、道徳的に「まずい」と感じる出来事には強く反応しやすい傾向があります。そこに、嫌な内容でも続きが知りたくなる好奇心や、SNS特有の広がり方が重なると、炎上はとても目を引きやすくなります。
炎上が気になるのは、悪い情報ほど目に残りやすいから
人は、楽しい知らせよりも、不穏な知らせや悪い出来事のほうに注意を向けやすいことが知られています。心理学では、悪い情報は良い情報より重く受け取られやすく、印象や判断にも強く残りやすいとされます。炎上はまさに、悪い知らせ、不快な対立、危うい空気がまとまって見える出来事です。そのため、心地よくなくても「何が起きているのか確認したい」と思わせやすくなります。
ここで大切なのは、炎上を見ることと、炎上を楽しんでいることは同じではないという点です。気持ちよく見ているというより、不穏な出来事に注意が向いてしまう。まずはその反応が起きやすい、と考えたほうが実態に近そうです。
人は「それはおかしい」と感じる場面に強く引かれる
炎上が大きくなりやすいのは、単なる失敗やミスではなく、「それは許されない」「その振る舞いはまずい」と受け取られやすいからです。こうした反応には、道徳的な怒りが関わります。SNSでは、道徳感情を含む言葉ほど広がりやすいことが報告されていて、2017年の研究では、道徳感情を帯びた語が1語増えるごとに拡散が約20%増える傾向が示されました。炎上が広がるのは、怒っている人が多いからだけでなく、怒りを含んだ言葉そのものが拡散しやすいからでもあります。
この仕組みがあると、炎上はただの話題ではなく、「みんなが規範違反を見張っている場」にも見えてきます。何が問題なのかを確かめたい、叩かれすぎではないのか見たい、どこまでが妥当な批判なのか知りたい。そうした気持ちも、炎上を見る動機になりやすいです。これは娯楽というより、社会の空気やルールを確かめる行動に近い面があります。
嫌なのに目が離れないのは、好奇心も同時に動くから
炎上がやっかいなのは、不快なのに気になることです。ここには、心理学でいう morbid curiosity(ネガティブな情報への好奇心) に近い動きがあります。2017年の研究では、人は中立的な内容だけでなく、死や暴力、事故のような強い負の情報も自分から選んで見に行くことが示されました。とくに、社会的な場面を含む負の情報は選ばれやすい傾向があり、炎上のように「人が人をどう裁くか」が見える場面は、その条件にかなり重なります。
さらに2020年の研究では、こうした負の情報を見に行く選択には、情報を得たときに手ごたえを感じる脳の仕組みが関わる可能性も示されました。ここでいう手ごたえは、楽しいというより「知りたいことが分かった」「確認できた」という感覚に近いものです。炎上を見ると気分が悪くなるのに止めにくいのは、嫌悪と好奇心が同時に動いているからだと考えると納得しやすくなります。
SNSでは、怒りが実際より大きく見えやすい
炎上を見ていると、「みんなが怒っている」と感じやすくなります。けれど、オンラインでは他人の道徳的な怒りを実際以上に強く知覚しやすいことが、2023年の研究で示されています。その結果、社会全体がより敵対的で、対立の強い場所に見えやすくなります。
この見え方の偏りは、炎上の引力をさらに強めます。すでに大事件になっているように見えると、「知らないと置いていかれそう」「何が問題なのか把握しておきたい」と思いやすくなるからです。炎上を見るのは参加したいからだけではなく、空気を読みたい、周囲の基準を知りたいという動きでもあります。
「見る」と「加わる」は同じではない
炎上を見てしまう人が、みな他人を叩きたいわけではありません。経緯を知りたい人もいれば、何が批判されているのか確認したい人もいますし、単に話題についていけなくなるのを避けたい人もいます。見ることと、攻撃に加わることは分けて考えたほうが実態に近いです。道徳的な怒りが広がりやすいこと、負の情報が目に残りやすいことを踏まえると、「目がいく」こと自体を、すぐ性格の問題だけで片づける必要はなさそうです。
ただ、長く浸かり続けると影響が出る可能性はあります。2024年には、Xの利用と怒りや対立の先鋭化、帰属感、気分の変化が結びついていたとする研究も出ています。炎上を見ることすべてが悪いと決める必要はありませんが、怒りの強い情報ばかり浴び続けると、自分の感情の基準が引っぱられやすい、という見方は持っておいたほうがよさそうです。
炎上がなくならないのは、人の心理とSNSの仕組みがかみ合うから
ここまでを振り返ると、人が炎上を見る理由はひとつではありません。悪い情報ほど目に残りやすいこと。道徳的な怒りに強く反応しやすいこと。嫌な内容でも好奇心が切れにくいこと。そして、SNSでは怒りが実際以上に大きく見えやすく、拡散もしやすいこと。こうした条件が重なると、炎上は「見たくないのに見てしまう」対象になりやすくなります。
だから、炎上に引き寄せられるのは、誰かを裁きたい気持ちだけで起きているわけではありません。「何が起きているのか知りたい」「危ない話なら把握しておきたい」「みんながどう反応しているのか見たい」という、ごく人間的な注意や感情の動きも一緒に働いています。そう考えると、炎上は人の弱さだけでなく、人の注意と社会性の仕組みに強く刺さる現象だと見えてきます。
Q&A(よくある疑問)
まとめ
人が炎上を見るのは、単に野次馬だからではありません。負の情報に注意が向きやすいこと、道徳的な怒りが強い関心を呼ぶこと、嫌な内容でも好奇心が続くこと、そしてSNSでは怒りが大きく見えやすく拡散しやすいことが重なっているからです。炎上は、人の性格だけではなく、人の注意や感情の仕組みそのものに引っかかりやすい題材だと言えます。
そのため、つい見てしまうこと自体は珍しくありません。大事なのは、「なぜ見てしまうのか」を知っておくことです。理由が分かると、引き寄せられているのが自分の意思だけではなく、負の情報への注意や好奇心の仕組みでもあると見えてきます。そうすると、炎上との距離の取り方も少し考えやすくなります。
参考情報
- Brady et al.「Emotion shapes the diffusion of moralized content in social networks」
- Oosterwijk「Choosing the negative: A behavioral demonstration of morbid curiosity」
- Brady et al.「Overperception of moral outrage in online social networks inflates beliefs about intergroup hostility」
- Oosterwijk et al.「Choosing to view morbid information involves reward circuitry」
