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密漁はどれくらい行われている?世界規模の被害額と国別リスクを雑学解説

密漁や違法操業のニュースを見ることはあっても、「実際どれほど深刻なのか」「どの国で起きやすいのか」が明確に語られる機会は多くありません。国際的には IUU漁業(Illegal/Unreported/Unregulated)という広い枠組みで扱われ、世界の漁業を揺るがす大きな問題となっています。本記事では、世界の被害額の推計、国別リスクの傾向、中国が話題に上がりやすい背景、さらには衛星監視による密漁の“可視化”まで、知っておきたい雑学をやさしく解説します。


目次

密漁とは何か? IUU漁業という国際概念

IUUの3要素

IUU漁業は以下の3つを含む国際的概念です。

  • Illegal(違法)
  • Unreported(無報告)
  • Unregulated(無規制)

「密漁」というと“違法行為だけ”を指すように思われがちですが、IUU漁業は ルールの抜け穴となる行為全般 を含みます。そのため、どの国がどれだけ関わっているかを正確に定量化することは非常に困難です。


なぜ世界がIUUを問題視するのか

IUU漁業は以下の問題を同時に引き起こします。

  • 資源の枯渇リスク
  • 漁業者の収入減少と雇用不安
  • 市場の価格破壊
  • 税収損失
  • 一部地域では 労働・人権問題 と結びつくケースも存在

単なるルール違反というより、国際的に見て深刻な経済・社会問題です。


世界の密漁はどれくらい?年間被害額は1〜3兆円規模

世界の推計被害額

国際的研究では、IUU漁業による経済被害は以下のように推計されています。

  • 100億〜235億ドル(約1〜3兆円)/年
  • 漁獲量では 1,100万〜2,600万トン
  • 世界の漁獲量の 約20% が IUUに該当する可能性

これは、各国の漁業に大きな影響を与えるレベルです。


最も深刻とされる地域:西アフリカ沖

西アフリカ沿岸国は監視体制が脆弱なことから、世界で最も IUU が集中しやすい海域とされています。

  • 生活が漁業に強く依存
  • 遠洋漁船の流入が多い
  • 国の監視能力が不十分

この海域だけで 世界全体のIUUの約4割が発生する とする推計もあります。


中国が密漁と結びつけて語られやすい理由

世界最大規模の漁業大国である

中国は世界最大級の漁獲量を持ち、
広い海域で操業する 遠洋漁業船団(DWF) を保有しています。

そのため、

  • 合法操業の絶対量が多い
  • 国際ニュースで取り上げられやすい
  • 誤解や疑念が生まれやすい構造がある

という“露出の多さ”から、密漁議論と関連づけられやすいという側面があります。


赤サンゴ問題が大きく報道された

2013〜2014年頃、小笠原近海で赤サンゴをめぐる採捕事案が相次ぎ、日本国内で大きく報道されました。

さらに赤サンゴ採捕の一部では、海底をかき回すような器具が使用されるケースも指摘され、海底環境を破壊する可能性 が懸念されていました。赤サンゴは成長に非常に時間がかかるため、いったん破壊されると回復に長い年月を要します。

その後、日本側の取り締まり強化により、
当時のような大規模事案は大幅に減少した とされています。

「中国が注目されやすい理由」は、この過去の一連の報道が象徴的に取り上げられたためであり、
現在も同規模で続いているという意味ではありません。


国別の“被害額”を正確に出すのは不可能

IUU漁業は「無報告であること」が特徴のため、

  • 国別の密漁量
  • 国ごとの被害額

を正確に算出することはほぼ不可能です。

このため、国際研究では
「世界全体」または「海域別」 の推計を用いるのが一般的です。


中国以外の国でも密漁は行われている?世界のリスク分布

国際指標では複数地域が高リスク

IUU Fishing Risk Index など国際指標では、高リスク国は特定国に偏らず、

  • アフリカ沿岸国
  • 東南アジア
  • 南米

など、広い地域に分散 しています。

密漁は “一部の国だけの問題” ではなく、
海域の特徴や各国の監視能力によって発生しやすさが変わる構造的問題 です。


EUや日本も“輸入側”として関係する

IUU漁業の影響は、漁獲する国だけでなく、
その魚を輸入する国にも及びます。

  • EU
  • 日本
  • 英国

などの大規模消費国は、
IUUリスクのある水産物が市場に入らないよう管理を強化 しています。


衛星監視により“密漁の可視化”が進んでいる

AIS非搭載船の検知が可能に

衛星画像の解析とAI技術の発展により、
AIS(船舶識別装置)を切った船の行動も、
海上の光や航跡分析から把握できる時代 になりました。


国際プロジェクトが監視を支援

Global Fishing Watch などのプロジェクトでは、

  • 世界の船舶の位置を可視化
  • 不審行動を自動検知
  • 各国政府の監視をサポート

する仕組みが整備されつつあります。


“対立型”から“改善型”の理解へ

可視化が進むことで、

  • 特定国を非難する
    のではなく、
  • 海域ごとの構造的課題を分析し、
  • 国際協力で改善していく

というアプローチが進んでいます。


私たちにできる密漁対策

認証マークを選ぶ

MSC・ASCなどの認証マークは、漁業者から加工、流通まで一貫した管理が行われている水産物に付与されます。これらを選ぶことで、IUU漁業に由来する可能性のある魚が市場に入りにくくなり、消費者として持続可能な漁業を間接的に支える行動となります。


正確な情報を知ることが第一歩

密漁はセンシティブな話題で、特定国だけを責めるような形で語られることもあります。しかし実際には、海域ごとの事情や監視体制の違いが複雑に絡み合う“世界全体の構造的課題”です。被害額の推計、海域ごとのリスク、国際協力の取り組みを知ることで、より正確で公平な理解につながります。


Q&A(よくある質問)

密漁(IUU漁業)はなぜなくならないのですか?

IUU漁業は高い利益を生む一方、取り締まりが難しいため、世界的に根絶が課題となっています。監視体制が弱い海域では違法操業が見つかりにくく、複数国をまたぐサプライチェーンも把握を困難にします。また、経済格差や沿岸国の財政不足により監視が十分に行えない地域も多く、国際協力が不可欠とされています。

中国が密漁とセットで語られやすいのはなぜ?

中国は世界最大級の漁業大国で、合法操業の絶対量が多いため、国際ニュースで取り上げられやすい事情があります。また、2013〜2014年に赤サンゴ採捕問題が大きく報道されたことも、話題化の一因です。ただし「中国が特別に密漁している」という意味ではなく、漁業規模の大きさゆえに露出が多いという構造的要因が背景にあります。

国別の密漁量や被害額は分からないの?

IUU漁業の“無報告性”が最大の理由で、国ごとの正確な被害額を算出することはほぼ不可能です。国際研究は海域単位の推計を用い、被害額は世界全体で年間1〜3兆円規模とされています。国別比較よりも、海域特性や監視能力の違いを理解することが重要です。

赤サンゴ採捕は環境破壊になるの?

赤サンゴは成長速度が非常に遅く、海底を傷つけるような採取方法が使われると、周囲の生態系まで破壊される可能性があります。破壊された赤サンゴ群落は回復に数十年以上かかる場合もあり、違法採捕は資源枯渇だけでなく海洋環境にも重大な影響を与えるとされています。

私たちができる密漁防止はある?

消費者としてできる最大の対策は、MSCやASCなどの認証マークのついた水産物を選ぶことです。また、密漁の背景には海域ごとの監視体制や経済事情が絡むため、正しい知識を持つことも大切です。国際協力で改善を進めるためにも、正しい理解が重要な“第一歩”となります。


まとめ

IUU漁業は世界で年間1〜3兆円規模の損失を生む深刻な問題であり、特定国に限らず世界中の海で発生しています。中国が話題に上がりやすいのは漁業規模の大きさや過去の報道の影響が背景にありますが、現在は取り締まりが進み、当時の規模とは異なる状況です。一方で、衛星監視などの新技術により密漁の可視化が進み、国際協力による対策が強化されています。私たちも認証マークを選ぶなど、小さな行動を通じて持続可能な海の未来を支えることができます。


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