「最近、食費が高くなった気がする」と感じる人は多いでしょう。
しかし、エンゲル係数や家計調査の数字を見ると、「それほど上がっていない」と言われることもあります。この違和感は、いったいどこから来るのでしょうか。
本記事では、エンゲル係数だけでは見えにくい食費の実態を、家計調査と品目別の物価データをもとに読み解きます。数字と体感のズレに注目することで、「なぜ食費が苦しく感じられるのか」が見えてきます。
- 本記事で扱う価格は名目値であり、物価変動の方向性を理解する目的で使用しています。
食費は本当に上がっているのか?
結論から言うと、体感としては「上昇傾向にある」と感じやすい状況です。
ただし、その理由は「食費の割合が急激に増えたから」ではありません。
多くの人が感じている違和感は、統計上の数字と、日常の支払い感覚とのズレから生まれています。
家計調査で見る「食費の支出額」
まず、家計全体の動きを確認してみましょう。
以下の表は、二人以上の世帯における月平均の実収入・可処分所得・消費支出・食料費をまとめたものです。
- 本記事では、家計全体の傾向を把握するため「二人以上の世帯」を用いています。
収入と食費の関係(二人以上の世帯・月平均)
| 年 | 実収入 | 可処分所得 | 消費支出 | 食料 | 食料/可処分所得 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2000 | 562,755 | 474,411 | 341,896 | 75,174 | 15.85% |
| 2005 | 524,585 | 441,156 | 329,499 | 70,947 | 16.08% |
| 2010 | 520,692 | 429,967 | 318,315 | 69,597 | 16.19% |
| 2015 | 525,669 | 427,270 | 315,379 | 74,341 | 17.40% |
| 2020 | 609,535 | 498,639 | 305,811 | 79,496 | 15.94% |
| 2024 | 636,155 | 522,569 | 325,137 | 87,954 | 16.83% |
| 2025 | 611,997 | 495,299 | 343,109 | 92,155 | 18.61% |
- 出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「家計調査(二人以上の世帯・名目平均値・月平均)」を基に、記事用に整理・作成
- 2025年の数値は、2025年10月までの速報値を基にしています
- 世帯主の平均年齢上昇の影響を含みます
表から分かる基本的な傾向
この表から読み取れるポイントは次の通りです。
- 実収入や可処分所得は、長期的には緩やかに増加している
- 一方で、食料費の金額そのものも増加している
- 食料費が可処分所得に占める割合は、極端には変化していない
数字だけを見ると、「それほど負担は増えていないように見える」かもしれません。
しかし、多くの人が実感しているのは、割合ではなく、毎月支払う金額の重さです。
エンゲル係数はどうなっているのか?
エンゲル係数は、「消費支出に占める食費の割合」を示す指標です。
実際の数値を見ると、近年は次のような推移になっています。
エンゲル係数の推移(抜粋)
| 年 | エンゲル係数(%) |
|---|---|
| 2015 | 約25.0 |
| 2020 | 約27.5 |
| 2024 | 約28.3 |
- 出典:総務省統計局「家計調査」
この数値だけを見ると、「食費の負担はそれほど増えていない」と感じるかもしれません。
しかし、ここで注意が必要です。
エンゲル係数が“苦しさ”を映しにくい理由
エンゲル係数は、外食を控える、安価な商品に切り替えるといった節約行動によって下げることができます。
そのため、食品価格が上昇していても、家計の努力次第で数値は抑えられてしまうという特徴があります。
つまり、エンゲル係数は
「生活が楽かどうか」ではなく、
「どれだけ支出を調整しているか」も反映してしまう指標なのです。
支出と価格は別物という視点
家計調査で分かるのは、「いくら使ったか」という支出額です。
一方、小売物価統計などから分かるのは、「商品そのものの価格がいくらになったか」という価格の変化です。
この2つは似ているようで、意味は大きく異なります。
食費に対する違和感を理解するには、支出額と価格を切り分けて見る視点が欠かせません。
節約努力が数字に表れる仕組み
安価な食材を選ぶ、まとめ買いをする、外食を控える。
こうした工夫は、確かに支出額を抑える効果があります。
しかし、同じ商品を買い続ける限り、価格そのものの上昇を避けることはできません。
このため、努力しているにもかかわらず、家計が楽になった実感を持ちにくくなります。
体感に直結する「品目別の価格変化」
ここで重要になるのが、品目別の価格推移です。
次の表は、小売物価統計をもとに、価格変化そのものを把握しやすくするため、同一都市・同一規格のデータを用いて、代表的な食品の価格を比較したものです。
品目別物価の推移(2010年 → 2025年)
| 品目 | 2010年平均(円) | 2025年平均(円) | 増減率 |
|---|---|---|---|
| うるち米(コシヒカリ) | 約2,500 | 約4,700 | 約+90% |
| 小麦粉 | 約210 | 約370 | 約+75% |
| 鮭(さけ) | 約220 | 約430 | 約+100% |
| 牛肉(国産) | 約510 | 約860 | 約+65% |
| 牛乳 | 約210 | 約260 | 約+20% |
| にんじん | 約390 | 約580 | 約+50% |
| 食用油 | 約270 | 約420 | 約+55% |
| 砂糖 | 約180 | 約280 | 約+55% |
- 出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「小売物価統計調査」を基に、記事用に整理・作成
- 各価格は代表的な規格に基づく年平均価格
- 家計調査は全国平均、品目別物価は価格変化を把握しやすいよう八王子市の同一規格データを使用しています
- 2025年の数値は、2025年10月までの速報値を基にしています
主食・原材料の値上がり
うるち米や小麦粉、砂糖、食用油といった基礎的な食品は、2010年と比べて大きく値上がりしています。
これらは使用量を大きく減らしにくく、節約で吸収しづらい品目です。
たんぱく質・野菜の変化
鮭や牛肉、にんじんなども、長期的には上昇傾向が見られます。
特にたんぱく質は代替が難しく、価格上昇が家計の負担として直接伝わりやすい特徴があります。
原材料価格が与える波及効果
砂糖や食用油のような原材料の価格上昇は、加工食品全体にも波及します。
一つひとつは目立ちにくくても、家計全体にじわじわと影響を与える点が特徴です。
なぜ数字以上に「苦しい」と感じるのか
努力では吸収できない値上げ
食費は工夫次第で抑えられる部分もありますが、限界があります。
主食や調味料の価格上昇は、どの家庭にとっても避けられません。この「逃げ場のなさ」が、体感的な負担感を強めています。
生活必需品ほど体感が強くなる理由
購入頻度の高い商品ほど、値上げには気づきやすくなります。
月に一度の出費よりも、毎日の買い物のほうが、心理的な影響は大きくなりがちです。
まとめ
食費が「高くなった」と感じる理由は、エンゲル係数だけでは説明できません。
家計調査による支出額と、小売物価統計による価格変化を分けて見ることで、数字と体感のズレが見えてきます。
米や食用油、砂糖といった基礎的な食品の値上がりは、節約では吸収しきれず、家計に確実な負担を与えます。
食費の違和感は家計管理の失敗ではなく、構造的な変化によるものだと理解することが重要です。
「自分の家計はどうなのか?」と感じたら、
①支出額、②価格、③品目別、の3点で見直してみましょう。
数字の見方が変わるだけで、家計の判断はずっと楽になります。
- 本記事は、家計調査(二人以上の世帯)および小売物価統計に基づいています。
- 2025年の数値は、2025年10月までの速報値を基にしています。
